震災当日

震災当日、その日は天気も良く、暖かい格好の釣り日和でした。
午前で終わるはずの仕事が残業となり、廃家電の積み込みをしていた時だった。
突然の地鳴りと共に大きなゆれが仕事場を襲った。
積み上げたテレビが雪崩のように崩れ落ち、事務所の照明も崩れ落ちてきた。
これまでに経験した事のない大地震だ!!
これは間違いなく津波がくると察したオイラは、危険を覚悟で自宅へ車を走らせる。
途中建物は倒壊、崩落箇所もあり、信号は停電で機能を停止していた。
自宅に到着し大きな異変に気づく。
目の前の川に水が無い!!
しかも遥か下流の漁港まで底を出していた。
間違いなく津波は来ると確信。
残された時間は無いと知りつつも家の中に入ると、予想以上に家具の倒壊は無いが照明器具はほとんどが外れ、二階にいたっては家具やテレビの配置が大きく変わっていた。
家財の持ち出し袋を探すが、留守中の両親に電話連絡は取れず探し出す事は出来なかった。
次に大切なパソコンの配線を外し、車内に置けば良いのに、なぜか二階に上げた。
と言うのも、我々世代はチリ津波の教訓しかなく、オイラの自宅は浸水しなかったと言い聞かされていたからだった。
津波が来ても1階が浸る程度と予想していた。
次に家族である愛犬ダンディーの救出。
物置小屋に居たダンディーはこれまでにない怯え様で、オイラに駆け寄ってきた。
車にブルーシートを敷き、ダンディーの乗車は完了。
家財が諦めきれないオイラは再び家に戻るが、その時とんでもない光景が目に入った。
沖にある湾口防波堤の南側から、これまで見た事の無い波が押し寄せ、それは波と言うより、あふれ出る大きな水の塊だった!!
身の危険を感じたオイラは近所の高台に車で駆け上がった!!
幸い渋滞は無く、すんなりと避難できた。
高台から見た景色に唖然・・・
津波を止める頼りの壁(湾口防波堤)が完全に水没。
それは沖合いに広がる青いナイアガラの滝のようだった。
それでも湾口防波堤が津波を止め、津波警報が解除となれば家に帰れると思っていた。
だが対岸の浜町や公共埠頭にある建物や車が津波に飲み込まれ、オイラが避難した高台の下にまで津波が押し寄せた時、初めて津波の大きさに気づいた。
普段ならここで写真や動画で記録を残すオイラだが、目の前で逃げ遅れた人を見たオイラ!!
必死で物にしがみ付く人を目の当たりとし、オイラは黙っていることが出来ず、津波の引き潮で陸が出た瞬間、我を忘れて流された人のところへ駆け寄り救出!!
高台からは『津波また来たぞ!!逃げろ!!!逃げろ!!』の声。
必死で安全な場所まで引き上げ救出に成功。
その直後津波が押し寄せる・・・
だが逃げ遅れた人はまだ居た!!
繰り返し押し寄せる津波の中、何度も沈んだり浮かんだりを繰り返しながらも偶然流れ着いた杭にしがみ付いた!!
だが車が流れてきて、危うく衝突する寸前で流れが変わり、間一髪助かった。
『頑張れ!!頑張れ!!』と叫ぶ。
今出来ることはこれしか無い・・・
そして再び引き波で陸が現れた!!
ロープ片手に再び走り出したオイラ。
ずぶ濡れになりながら駆け寄り、流された男性に自力で走る事を問うが、完全に弱りきった男性は歩くことも出来ず、無我夢中でおんぶし、建物内で逃げ遅れていた男性も呼び寄せながら走るオイラ。
高台からはこれまでより大きな声で『来たぞ!!逃げろ!!!逃げろ!!』の声が聞こえて来た。
腰や腕が壊れそうになりながらも必死で走り、無事救出に成功した。
さて今度はオイラの両親だ。
両親は内陸に居るので身の安全は確保されていると確信、でも帰りの足が無いだろうと、残り少ないガソリンで内陸を目指す。
だがここで津波による甚大な被害を目の当たりとした・・・
道路は船や家の瓦礫で埋め尽くされ、全ての道が通行止め。
これで内陸へ行く道は全て断たれた・・・
だが親の安否が無事と分かればオイラのライフライン確保です。
通り道にあった小さな商店で食べ物を買い、釜石大観音の駐車場にあった食堂で水を確保、渓流解禁日の装備で積んでいたガスコンロとヤカンで暖かい食べ物も食べれるし、寝泊りは車内でなんとかなるし、着替えも釣り用の防寒着と作業服でなんとかなりそう。
これで応急的に衣食住の確保は完了し、最悪3日間は耐える事は出来る。
だが夜は昼の晴天とは逆に、予想以上の冷え込みで車内は極寒に・・・
あまりの寒さに車のエンジンを掛け暖を取るが、内陸への逃げ道を探したり、食料調達で走り回ったのが裏目となり、オイラの車の活動限界はわずかなものだった。
そこで助けとなったのは、我が愛犬ダンディーである。
一緒にブルーシートに包まり、わずかながらの温もりでお互いに暖を取り合った。

だが夜は大きな余震と、これからの不安感、季節外れの寒波で寝ることは出来ないまま夜が明けるのであった。



写真は救出後にかろうじて撮影した1枚です。


震災から1ヶ月目同ポイントから撮影した1枚。